Teslaの共同研究者 100年の寿命を有するバッテリーコンセプトを提案

概要

カナダ ノバスコシア州 Dalhousie大学のJeff Dahn教授が率いる研究チームがJournal of the Electrochemical Societyに投稿した論文によると、適切な条件下で使用すれば100年の寿命を有する電池設計を提案しました。

Dahn教授は2016年からTeslaの共同研究パートナーになっており、リチウムイオン電池のエネルギー密度向上/寿命向上/コスト削減の研究をしている有名人です。Teslaの愛好家の間でも有名な方ですね。

Dahn教授の論文によると、今回提案の Li[Ni0.5Mn0.3Co0.2]O2「NMC532」電池とLiFePO4電池の性能を対比させた研究で、後者はTeslaが現在欧州に輸出している上海Giga製「Model 3 RWD」に採用している「リン酸鉄リチウム」(通称LFP)を指します。LFPはより広く普及しているリチウムイオン電池よりもエネルギー密度が低いものの、安価で耐久性があり、より安全性の高いバッテリーであると言われています。LFPは12,000回の充放電が可能であり、この点でLFPを上回ることは並大抵のことではありません。しかしDahn教授のNMC532電池は、2,000回近く充電しても電池容量が低下しないことが確認されました。この論文ではこれを100年の寿命に相当すると推定しています。

 

さてどんな内容の論文か?

気になる論文の中身について、肝になる部分だけ掻い摘みます。詳細気になる方は論文の原文を参照下さい。

ちなみに学会の論文を読み慣れていない方のためにアドバイスです。

読み方としては、最初にアブストと結論を先に読んでざっくり全体像を掴み、その後詳細を読み込む、というやり方がおススメです。

 

以下が今回論文の重要データです。非常に興味深い結果でした。

グラフの横軸が充放電サイクル回数、縦軸は上段が放電容量で、下段が平均充放電電圧差です。それぞれ値は正規化されてます。w/MAは電解液を酢酸メチルで20%希釈したプロットみたいです。

ここに記載のCレートとは、最大容量に対して電池が放電される速さを示しており、1Cレートとは放電電流が1時間で電池の全容量を放電することを意味します。

データから以下事項が示唆できます。

 

・LiFSIを含む電解質との互換性がありNMCは高電圧腐食の問題を回避できる。

・高温での寿命は、従来のLiPF6電解質を用いたセルよりもはるかに優れる

・NMC532は負極にグラファイトを大幅に含んでおり、グラファイトが相乗効果を発揮している可能性がある

 

長寿命の性能が発現する理由の一つとして、NMC532は単結晶のカソードに切り替えたことが寄与していますが、上記の結果はその要因だけでは説明できません。

(ちなみに、正極材へのリチウムの挿入・脱離する際、体積変化が生じるので、多結晶のような異方性をもつ結晶構造の材料組成ですと膨張量に体積の不一致が生じます。その結果、結晶間に応力が発生し、マイクロクラックが生じて材料が破損してしまうことが一般的に知られてます。一方、単結晶構造の材料組成ですと体積変化に伴う膨張量は同一方向に伸縮しますのでマイクロクラックは生じにくくなります。)

また高電圧化では相転移による破壊モードが生じるのですが、NMC532ではそちらも抑えれる可能性を示唆しています。なお、試験に用いた試料は3000時間までの使用に耐えうる部材を前提としており、寿命予測はアレニウスプロットに基づきます。

本論文ではNMC532の設計コンセプトが示された訳ですが、性能発現メカニズムは現時点でわかっていない部分もあるとのことです。今後の研究で解明されることを期待したいです。

 

(素朴な疑問なんですが、何で今のタイミングでこの論文が出てきたんですかね?金属配合比の検討って難しいんでしょうか?)

 

想定されるTeslaの戦略は?

Dahn教授が提案しているNMC532電池は、LG Chemが現在採用しているNMC811電池とは対照的で、NMC811はマンガンとコバルト1の比率に対し、ニッケル8のカソードになっています。

昨年、Tesla Model YはNMC811からLG ChemのNCMA電池、別名「高ニッケル」電池に切り替えてます。これらはLFPやNMC811に比べて高価ですが、長航続距離を実現するために高密度ニッケルを採用しています。NCMA電池は、ニッケル、コバルト、マンガン、アルミニウムをカソードに使用していますが89%がニッケルです。このニッケルリッチ正極材は、前回のImpact Report 2021で触れた戦略と矛盾しません。

 

一方、Dahn教授が今回論文で発表したNMC532のニッケルの割合は5になります。NCMAおよびNMC811よりもイニシャルコストは高いかもしれませんね。

ただ上記Impact Report 2021でも言及したように、将来的にRobotaxiのような商用利用の場合は走行距離が爆増しますので、バッテリーリユースの観点でランニングコスト的にはNMC532の方がに分がある可能性はあります。

この辺は利用用途に応じてバッテリータイプを使い分ける戦略になるかもしれません。

 

加えて、バッテリー原材料はレアメタルの塊です。バッテリーに使われるレアメタルは高純度の金属が求められますので採掘できる鉱床も限られますし、水酸化リチウムも高純度で生成する必要があります。つまり、どこでも、誰でも、簡単に原材料が入手できる訳ではないんですよね。そこにEV需要増加の波が押し寄せてますので、需給の関係から原材料費の高騰が懸念されます。

しかし、もしこのような長寿命のバッテリーが実現できればどうでしょう。バッテリーリユースが可能なので、原材料費の高騰を抑える一定の効果に期待できますし、SDGsの観点でもそちらの方が望ましいです。

 

参考記事


 

 

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