Tesla,バッテリーサプライチェーン「Impact Report 2021」,透けて見えるTeslaの戦略とは?

Photo: "Courtesy of Tesla, Inc."

5月6日、Teslaは総数144ページに渡る「Impact Report 2021 」を公開しました。内容は、Teslaが解決しようとするミションとゴール、実現するためのロードマップ、コーポレートガバナンス、人材に対する取り組みや考え方、製品の製造に使われるエネルギーや水といった環境、顧客や従業員の安全性等、多岐のテーマに渡ります。

初回は「人材」、2回目は「車の安全設計」、そして第3回目となる今回は「バッテリーサプライチェーン」のテーマを取り上げていきたいと思います。

また、バッテリーサプライチェーンのレポートからTeslaの戦略が垣間見えました。ヒントを探るため、早速原文を読み込んでいきましょう。

 

 

私たちは何をもってインパクトとするか?
人権と環境を守ることは、私たちの調達戦略の中核をなすものです。Teslaは多くの異なる材料や部品から製品を製造しています。そのうちのいくつかは私たちが直接(Tire1)サプライヤーから購入しています。Tire1サプライヤーの多くは、すべての原材料を直接購入するのではなく複雑なサプライチェーンを通じて、世界中のサプライヤーやSubサプライヤーから原材料を調達しています。私たちは、バッテリーはこれらの原材料の一部を供給し、クローズド・ループ・サプライ・チェーンを実現する上で、重要な役割を果たすと考えています。世界的なバッテリーセル生産は、今後も一次産品や採掘された材料に大きく依存し、当社製品の需要増に対応していくものと認識しています。当社製品への需要増に対応するためです。

持続可能なエネルギーへの世界の移行を加速させるというTeslaのミッションに沿って、Teslaは以下を徹底することを約束します。Teslaは、持続可能なエネルギーへの世界の移行を加速するというミッションに沿って、当社のサプライチェーンに含まれる企業が人権を尊重し、環境を保護することを確約します。私たちの目標は、以下の通りです。Teslaのサプライチェーンが関わる地域のステークホルダーの状況を継続的に改善し、Tesla製品の購入につなげることが私たちの目標です。購入することです。私たちの責任ある調達戦略には次のような目標があります。

  1. サプライヤーから直接調達する材料の割合を増やし、より工場に近いところから調達する(サプライチェーンの現地化)
  2. グローバルな調達を継続し、調達先の地域環境の改善に貢献する

電池のサプライチェーンにおける GHG 排出量を把握することは、私たちの最優先課題の一つです
EV用電池の製造に伴う上流工程でのGHG(Green House Gas)排出量は、原材料の採取から精製、原材料の輸送に至るまで多岐にわたります。私たちは、これらの特定の活動が、Model 3バッテリーパックの総排出量の最大80%を占めると推定しており、化学処理段階での貢献が最も大きいとしています。業界初となる当社のバッテリーサプライチェーンGHG排出量ホットスポット分析については、本レポートの 104 ページに記載しています。

 

 

私たちの多様な正極戦略
現在のTeslaのバッテリーには、高エネルギー用途のニッケル・コバルト・アルミニウム酸リチウム(NCA)および ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM)、低エネルギー用途のリン酸鉄リチウム(LFP)など、さまざまな正極化学物質が使用されています。Teslaは、LFP、ニッケルリッチおよびマンガンリッチ正極の多様な正極戦略を進め、車両およびエネルギー貯蔵製品のさまざまな市場セグメントに対応し、原材料の入手可能性と価格に基づいて将来の柔軟性を提供します。ちなみに、リチウムは電池パック全体の重量のおよそ1.5%を占めるにすぎません。またリン酸鉄電池パックにはコバルトやニッケルは含まれていません。

正極の相対的な組成と、さまざまな鉱物やバッテリーグレードの化学物質の全体的な需要は今後も変化し続けるでしょうが、Teslaと世界のバッテリーサプライチェーンは、責任を持って生産された大量のリチウム、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、リン酸塩、その他多くの鉱物を当面の間必要とするでしょう。私たちはクローズドループサプライチェーンを実現するために、電池のリサイクルがこれらの材料の一部を供給する上で重要な役割を果たすことを認識していますが、世界の電池生産は短中期的に増大する需要を満たすために、引き続き一次採掘材料に大きく依存することになると思われます。これらの鉱物や化学物質が入手可能で、かつ安価であることがこれらの鉱物や化学物質の入手可能性と価格はTeslaのミッションを推進し、持続可能なエネルギーへの移行を加速させるための鍵です。私たちはサプライヤーや上流生産者と協力し、主要なバッテリー用鉱物のスケールアップを可能にするための可視性を提供し続けます。

NCA と NCM の正極を含むセルについては、車の航続距離を伸ばすために、ニッケルをより多く含む電池を目指し引き続き取り組みます。また,NCA と NCMの正極を含む電池については,電池の安全性や寿命など電池の全体的な性能を損なうことなく,車両航続距離の向上と電池全体のコスト削減を図るため,ニッケルの含有量を増やせるよう取り組んでいます。また、NCA、NCM の正極については、ニッケルの含有量を増やすことで自動車の航続距離を伸ばし、電池のコストを下げます。ここで重要なのは コバルトの絶対需要量は、今後数年間で増加すると予想しています。車とセルの生産量の増加率は、セル当たりのコバルトの減少率を上回ると予想されるためです。

 

 

バッテリーサプライチェーンの責任ある調達の見通し:形式化と拡大
Teslaのバッテリー責任ある調達プログラムはまだ比較的新しいものです。しかしこのプログラムは、バッテリーサプライチェーンにおける環境および社会リスクを特定するシステムの開発と初期導入、Teslaのバッテリーサプライチェーンに影響を受けるステークホルダーの状況の緩和と改善に向けた具体的な進展など、昨年いくつかの重要なマイルストーンを達成しました。2022年、Teslaはプログラムの勢いを継続し、サプライチェーンのGHG排出量削減計画の策定や、鉱山国でのさらなるプロジェクトや投資など、本レポートで共有したデータポイントの改善を行い、環境と社会にプラスの影響を与えることを計画しています。Teslaはその後、マンガングラファイト、銅、マイカへの拡張を検討します。

 

はい、ということでいかがでしたか。

この中にピンとくるフレーズ、ありませんでしたか?

・電池全体のコスト削減を図るため、ニッケルの含有量を増やす

・ニッケルリッチおよびマンガンリッチ正極の多様な正極戦略を進める

このフレーズどこかで聞いた覚えありますよね。

そう、2020年に開催されたBattery-dayです。そのイベントでElon Muskは開発中の新しいバッテリーを紹介すると共に、その関連技術改善によってkWh当たりでおよそ56%のコストを削減し、バッテリー自体の価格を6000ドル未満に実現できるということを発表しました。このバッテリーを採用することで、「3年後には完全自律式の魅力的な2万5000ドルのEVを作れると思う」とも語りました。

 

結論から言ってしまうと、前々回決算説明会でElonは「今は2万5000ドルのクルマの開発はしてない」と言ってましたが開発は順調に進んいる、というメッセージがこのImpact Reportには込められていると考えています。

 

何のこと?と忘れてしまった方もいる方のために、せっかくですしBattery-dayの内容を掻い摘んでおさらいしていきましょう。

 

それは遡ること約1年半前、2020年9月22日、カリフォルニア州フリーモントの自社工場で開催した年次株主総会の後に、Teslaは「Battery Day」イベントを開催しました。そして先に記載した今後のバッテリー価格戦略と2万5000ドルというまさに業界破壊をもたらすであろうダークホース的なEVの発表をした訳です。(恐ろしい。。)

以下のグラフは、縦軸がKWh当たりのコスト($)、横軸が経年時間で表した曲線で、通常のコストダウントレンド(白線)をブレイクスルー(赤線)してやるぞ!と豪語してるグラフです。

Photo: TESLA "Battery-Day"

 

56%のコスト削減の具体的な方法について、Teslaは5つの柱で実現すると語りました。

  1. Battery設計(-14%)
  2. Battery工場(-18%)
  3. 負極材料(-5%)
  4. 正極材料(-12%)
  5. 車載方法(-7%)

Photo: TESLA "Battery-Day"

 

Battery-Dayではニッケルの含有量を増加させることが、正極材料のコスト削減を握る鍵だ、と繰り返し説明されてました(上の図の赤矢印です)。そしてニッケルを"本棚"に、そしてリチウムイオンのことを"本"の関係に例え、なぜニッケルに着目するのかというと、ニッケルはWh当たりの重量はコバルトと同等でかつ、KWh当たりのコストが安い、ということを主張してましたね。

Photo: TESLA "Battery-Day"

 

・・・ところで、少し話が逸れるのですが、ふとした疑問がここで湧く訳であります。

ふむ、なるほど。ニッケルはコスト的にメリットがあるのですね。ではなぜ最初からニッケルリッチのバッテリー設計をしないのか?ということです。

私自身、電池系が専門ではありませんので少し調べてみることにしました。

そしてその疑問はPanasonicが出してる文献が解決してくれました。さすがPanasonic

表: 各正極材料の特長 出典:Panasonic

ニッケルは他の正極材料電池と比較するとエネルギー密度が高いものの、2つの大きな弱点を抱えているとのことです。

文献によると1つは、熱的安定性の面。事故等でバッテリー内に金属等の異物が混入すると電池内部で短絡し、異常発熱する懸念があるとこのと。

もう一つは高温保存時にCO2が発生し電池内の安全機構が作動し充放電できなくなる課題があったそうです。

当然このようなbehindがニッケルに存在することはTeslaも当然良く知っているハズで、Battery-Dayの中では、Teslaは独自のコーティング剤や添加物を使用して高純度のニッケル正極材を開発している状況を説明していました。

以下はその高純度のニッケル正極材のSEM(走査性電子顕微鏡)の画像ですが、これだけ見せられても何のこっちゃですね。何が凄いのかよくわかりませんし、機密情報も含くまれていると思われ、サラッと流す程度の説明で終わりました。

Photo: TESLA "Battery-Day"

 

以上が約1年半前のBattery-Dayで話された内容です。思い出していただけたでしょうか?

 

また今回のレポートでは、「多様な正極戦略を進め、原材料の入手可能性と価格に基づいて将来の柔軟性を提供します」と述べています。これは昨今価格が暴騰してる希少金属の調達に関するリスクヘッジと購買戦略を示唆していると考えられます。正極材料はニッケルだけに限定せず代替正極材の開発も視野に入れることで、バッテリー性能を劣後することなく安定した原材料の調達と調達価格を実現する、という意図と捉えました。

こういった技術開発陣と購買が一体になって戦略的に囲い込む様は素晴らしいですね。

 

そしてその他の柱となるアイテムについても進捗が見られており、第一四半期決算説明会で報告されていたように、4680バッテリーが今年中にテキサス、ベルリン工場で生産が開始されると語ってましたし、この4680バッテリーをシャシー構造としたプラットフォームで量産が成されると見られます。ドライ電極製法と負極材料の開発状況はあまり情報入手できてませんが、まあTeslaのことなんで有言実行するでしょう。

 

ということで、Elon MuskがBattery-dayで語った、完全自律式の2万5000ドルのEV、その鍵を握るバッテリー開発は進んでいそうです。楽しみであると共におぞましい限りです。

 

それから、第一四半期決算説明会で話された2024年に量産予定のペダル無し、ハンドルも無い完全自律型EV、どう考えてもこの2万5000ドルのRobotaxi専用EVを指してますよね。

バッテリーは自動車の寿命よりも長持ちするよう設計されている、とレポートでも書かれていますので、既にRobotaxi化すること見越し、商用利用する前提で設計されている思想が伺えます。商用利用する場合は当然走行距離が激増しますので、それをEVに置き換えることはCO2排出量削減に極めて大きく貢献することになります。

また上記の設計概念でいくと、車体が寿命が迎えたら、新しい車体にバッテリーだけ載せ替えることが可能です。特に希少金属が多く必要とされるバッテリーをリユースできるようにすることは、希少資源を有効活用する点においても重要な設計思想と思います。

Teslaを知れば知るほど、彼らの思想は至高ですね。視座の高さに震えます。

 

 

 

 

参考:人材に対する取り組み

参考:クルマの安全設計に関する取り組み

 

 

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